廃屋画家 坂尻佳恵


なんなんながギャラリー営業開始直前に開いたPreイベント【みんなで作ろう みんなのギャラリー なんなんな】には、遥か関東は千葉県八千代市からの出品もありました。それは、廃屋を克明に描写したもので、古民家ギャラリーにはふさわし過ぎるほどの作品だったことを覚えています。その作者が、今回紹介する坂尻佳恵さんです。
実は、坂尻さん、なんなんながまだアトリエとして仮営業している頃に、突然、現われました。なんなんなのことはネットで知って、四国の廃屋を調査する旅の途中に訪れてみようと思われたのだそうです。
坂尻さんの廃屋調査というものは、ただ単に廃屋をカメラに納めるというだけのものではありません。実際に廃屋の持主に会って、それこそ酒を飲み交わしながらでも、当時、ここに住んでいた時のお話を聴きだすのだそうです。そのようにしてイメージを膨らませていくわけです。ですから、彼女は廃屋を描きながら、そこに人の営みを求めていたと言っても過言ではないのです。人は居なくても住いはあります。そこにある様々な調度品にも人の使った証しがあります。そんな人の気配がそこにはあるのです。
未来が見えなくなっている現代、彼女の過去を懸命に振り返ろうとする姿に共感を覚えた私は、しばらく、彼女の創作を見てみようと心に決めました。

その後、彼女のアトリエにお邪魔して、見せていただいた作品に、私は驚きました。正直、「こう来たか!」って感じだったのです。そこには、古くなった立板に裸電球が描かれていました。以前、廃屋で目にして、とても気になったので絵にしたとのことですが、それは廃屋に輝く光そのもではありませんか! この光の基にこそ家族が、そして彼らの未来が、文化が、希望があったのです。そして、誰も居なくなった今でも、その廃屋には輝いているのです。

廃屋の中に光を見つけた坂尻佳恵さん、彼女の新たなる展開に、私はますます目が離せなくなりました。