デジタル神話作家 田中良典

田中良典のソロサークル【EXCALIBUR】のアートワークを見て、私はいま、YMOの生みの親である細野晴臣氏が嘗て、「自然とはデジタルである。」と発言したのを思い出しています。それは、アナログこそが自然であると信じていた当時の私にとっては衝撃的な発言でした。しかし、後の脳科学の研究成果によって、人間の感覚をいかに脳は曖昧にとらえているかが解明された今、もはやそれは確信に近づいてきている発言となりつつあります。
考え直してみると、将に、芸術(特にデザインワーク)とは、この曖昧なアナログ感をデジタル化することに他ならなかったのではないでしょうか? しかし、そうすると、あの曖昧さ、即ち、あの人間臭さが無くなってしまいます。その葛藤こそが、田中良典のソロサークル【EXCALIBUR】の持つコンセプトなのです。
人間である田中良典は、自ら「自分はたいしたデッサン力も持っていない。」と発言し、巧みに加工されたデジタル画像とそれを懸命に模写した自身のデッサンとの差異を見せつけてきます。ちなみに、ここで巧みにデジタル加工しているのが【EXCALIBUR】というVJ(ビデオジョッキー)です。 【EXCALIBUR】は正体不明のデジタル化した存在として、パソコンのキーボードでできた仮面を被って、同じくキーボードでできた手袋をはめてVJレコーダーを操作します。
この様な巧みに演出された【EXCALIBUR】のVJショウは、徐々に人気をはくし、ファンも増えてきています。そしてこれこそが、彼が目指す【未来の神話】に他ならないのです。まさに田中良典は、【EXCALIBUR】という神を出現させ、人類のデジタル神話を創造しています。
田中良典の生まれ育った京都府宮津市は、天橋立で有名な神話の町。そこで、8bitのゲームに明け暮れた日々が、【EXCALIBUR】の出現に多大な影響を与えていることは容易にうかがい知ることができますが、さらに、注目すべきはディレクションです。田中良典の変換能力は我々の言語領域までも凌駕し、彼の創り出す独自のディレクションは神託化されはじめているともとらえられるほどに謎めいております。
田中良典のソロサークル【EXCALIBUR】のアートワークに酔いしれしまった私にとって、恐らく未来、それは神話として実現するでありましょう。今まさに、それは確信に近づいてきているからです。
これからも、田中良典のソロサークル【EXCALIBUR】に注目です!